[初心者のためのQ&A]
Q.  踊りの稽古って、初心者でもできますか?

A. 大丈夫です。日本の伝統的なお稽古事に不慣れな方でも、心配はご無用です。
  少しずつお教えしますから、お気軽にトライしてみてください。

Q.  浴衣も一人で着れないんですけど……
A. 
着付けもお教えします。毎回着ていくうちに、着付けにも慣れてきますし、
  きれいに着るコツもわかってきます。慣れることが大切です。

Q.  冬でも浴衣で稽古するんですか?
A. お稽古では冬でも浴衣でオーケイです。最近は、ポリエステル製の洗える着物もありますから、
  そういうのをお稽古に使っても便利です。洗濯機で洗えるので、お手入れが楽です。
  
Q. お稽古は個人レッスンなんですか?
A.  基本的にマンツーマンです。
 グループ・レッスンをご希望の方があれば、受け付けます。

Q. 踊りの稽古って、お金がかかるって聞きますが……
A. 本格的なお舞台は、ちょっと費用がかさみますが、私のお稽古場では、皆さんに気軽に舞の稽古を楽しんでいただきたいので、おさらい会も、”素踊り”でやるようにしています。

Q. ”素踊り”って何ですか?
A. ”素踊り”(すおどり)とは、ふつうのお着物で踊ることをいいます。
  ”素踊り”に対して、”衣裳付け”というのが、舞台用の鬘、衣裳をつけ、白塗りの化粧を施して踊ることをいいます。
  こちらを選ぶと、そこそこ費用がかかってしまいますので、私は”素踊り”を基本としています。

Q. 鬘とか、かぶってみたい気もするんですが…… 
A. その場合も、ご相談にのります。夢は必ずや叶うでしょう。

Q. 舞妓さんの衣裳にあこがれているんですけど、年取ってからでも、できますか?
A. 幾つになっても、白塗りの化粧や鬘をかぶると、大変身できます。
  60歳や70歳になってから、昔の夢を叶える方は大勢います。
  あきらめないでください。

[ちょっと本格的なQ&A]
Q.  本当に畳一畳で踊れるんですか? 
A. 
そうなんです。舞の種類によりますが、そんな狭いスペースで舞えるものがあるんです。
  特に、舞妓さんや芸妓さんたちの舞は、お座敷で披露する場合が多いので、
  狭いスペースで成立するように振り付けられています。
  もちろん、出し物によってはもっと広いスペースが必要なものがあります。
  それでも、畳二畳から四畳半もあれば舞えるものがたくさんありますし、
  もっと広いスペースで披露するような大作も、いろいろあります。

Q. 扇は必ず使うのですか?
A.
扇は舞にとって、とても重要な小道具です。
 昔から、扇は儀礼的なもの、祭事などで必ず使われてきました。
 舞でも、お稽古のはじめに、まず扇を前に置いてご挨拶をしてから、稽古を始めます。
 舞にとっての扇は、振付を華やかに彩る装飾的な役割のほかに、“見立て“と呼ばれる重要な役割があります。
 扇は万能小道具となって、”鏡”や”手紙”、”傘”、”杯”などに変身してくれます。
 落語家さんがお扇子を”箸に見立て”て、おそばをおいしそうに食べる仕草をしていますよね。同じことです。
 では、下の写真は、何を”見立て”ているのか、わかりますか?

答えは……七福神の恵比寿さんが、右手は釣竿を、左手に抱えている扇は”鯛に見立て”ています。ちょっと難しかったかしら?
        (地唄の『萬歳』より)

Q. 地唄って、何ですか?
A. 日本で一番古い三味線音楽です。舞の伴奏には、この地唄を使う場合が多いです。
 そもそも三味線という楽器は、戦国時代に中国から琉球に伝来した”三絃”という弦楽器を、江戸時代に上方(大阪を中心とし た関西エリア)にいた盲目の琵琶奏者たちが日本風にアレンジして作ったものです。
 ですから、地唄では、伴奏に使う三味線のことを、今でも”三絃”と呼びます。そして、琵琶奏者たちは次々と唄を作っていきました。それが、”地唄”になります(地唄の”地”とは、江戸唄に対して地元、つまり上方を指しています)。
 地唄は、奏者が演奏しながら歌いますので、いわゆる、弾き語り、です。
 舞は、そうした地唄に振りをつけて発展していきました。江戸時代に書かれた唄ですから、歌詞はちょっとわかりにくいかもしれません。でも、なかにはこんなユーモラスなものもあるんですよ。
   「今度長崎でかわった唱歌を習うた あとさきは覚えなんだが 中の唱歌を忘れた
    さこそあるべきと書いてもろうたが それさえ出口でなくした…… ハテ面目ない……」

 せっかく教えてもらった歌を、忘れちゃった!という唄です。とぼけた味わいがありますよね?(『忘れ唱歌』より)

Q. 上方舞と日本舞踊って、ちがうんですか?
A. ”日本舞踊”というのは、日本における舞踊の総称です。
 ですから、そのなかに歌舞伎舞踊もあれば、上方舞も入ります。
 一般的には、日本の古典の代表的な踊りである歌舞伎舞踊のことを”日本舞踊”、または”踊り”と呼ぶ場合が多いです。
 そして、よく問われるのが、”踊り””舞”のちがいについてです。
 歌舞伎舞踊、いわゆる”踊り”は、歌舞伎の所作の基本で、踊る、つまり、跳躍するような振りが特徴と言えます。
 舞台も広く使い、大道具や小道具をふんだんに使い、衣装の図柄も大きく華やかです。
 それに比べますと、”舞”は舞う、つまり、サークル運動をしているような動きが多いです。
 お能の影響を受けていることあって、感情をぐっと内に秘めたような所作が多く、舞台も衣裳もあまり派手でなく、
 抑えたものになります。
 そのちがいを知るには、実際に舞台を見てみるのが一番いいでしょう。
 華やかな”踊り”も楽しいし、静かな動きの”舞”も洗練されています。どちらもそれぞれ、いい味があります。

Q. よく藤間流とか坂東流とか聞くのですが、この〜〜流ってどういう意味ですか?
A. ”流派”といって、それぞれの流派にそれぞれの歴史と伝統があり、その流派独特の振付があります。
 流派のことを英語で”school”といいます。スクール、つまり学校ですね。
 例えば慶応大学には慶応のカラーがあり、京都大学にはまたちがうカラーがあるように、流派にもカラーがあるのです。
 藤間流と坂東流は、日本舞踊の流派になります(ほかにもたくさんありますが、ここでは省略します)。
 上方舞では井上流山村流楳茂都流吉村流の四つが四大流派と呼ばれています。
 井上流は”京舞”とも呼ばれ、京都を中心に発展した流派で、女性しか入門できません。
 ほかの流派は男性も入門できます。なんと、三つの流派の家元(校長先生ですね)は男性なんですよ。
 山村流の家元は山村若さんといって、関西を中心に精力的に活動なさっています。
 楳茂都流の家元は、今テレビでも大ブレークしている歌舞伎俳優の片岡愛之助さん。
 そして、私が属している吉村流の家元の輝章先生は、東京都のご出身で、現在も東京を拠点に後進の指導に当たられています。舞のお稽古をなさるのは女性が多いのですが、この三つの流派はいずれも男性の入門者、ウェルカムです。

Q. 男性の舞い姿って、ちょっと想像できないんですが……
A. 舞妓さんのイメージが強いと、男性の舞う姿はちょっと想像しにくいかもしれません。
  男の人が舞うと、どこか女っぽい、なよっとした所作を想像するかもしれません。
 でも、じっさいの舞の所作は凛とした美しさがあり、柔らかな曲線を描きながらもシャープさを感じさせる動きになっています。
 下の写真は、私の教え子の一人K君の舞い姿です。

 これは、『閨の扇』という女の舞です。どうです? きりっとしてませんか?
 男の人が女の舞をするときには、このような着流し姿で舞います。男の演目の場合には、袴をつけます。
 男と女の舞い分けは、一言で言うなら、外股で歩くか内股で歩くか、でしょうか。
 日本舞踊(”踊り”でも”舞”でも)では、男女の別なく、どちらの役も稽古します。
 男が女の役をやるなら、女も男の役をやる。
 そのちがいが分かるようになると、稽古が面白くなってくると思います。

Q. 舞って、のんびりした曲ばかりのような気がするんですが……
A. 伴奏に使う地唄には確かにゆっくりしたものが多いのですが、お稽古してみると、これがなかなか難しいんです。
  じっと堪えながら動く感じ、ですね。
  でも、舞のすべてがのんびりしているわけではなく、アップテンポの曲もあります。
   また、地唄以外にも、長唄や常磐津、清元、義太夫、一中節、大和楽、といったジャンルの音も使いますので、
  曲調はさまざま。振付もさまざまです。
 
Q. 長唄、常磐津、清元……って、何ですか?
A. 三味線音楽の種類です。
 長唄(ながうた)、常磐津(ときわず)、清元(きよもと)、義太夫(ぎだゆう)、一中節(いっちゅうぶし)、大和楽(やまとがく)、など。
 まるで一つの幹から枝葉が分かれていくように、三味線音楽はいろいろなバリエーションを生んでいきました。
 いずれも基本となるのは、三味線と唄です。
 でも、その三味線の太さが異なったり、張る糸の太さもいろいろ。そして、調べも唄い方もちがいます。
 三味線音楽のなかで、地唄は単独の弾き語り(”弾き唄い”、といいます)。
 でも、そのほかは、演奏者と唄い手が別々で、しかも複数になることが多いです。

Q. 扇以外に小道具を使うことはないのですか?
A. あります。日本舞踊に比べると少ないですけど、たとえば、手ぬぐい袱紗などを使うことがあります。
 
  上の写真は、地唄の「」を舞ったときのもの。道具は絹張りの傘です。ふつうの傘より、かなり大きめです。 

Q. ”艶物”ってよく聞きますが、具体的にはどんな舞なんですか?
A. 艶物(つやもの)とは、女の情念を描いた地唄に振り付けられた、とても上方舞らしい舞の種類です。
 女の情念といっても色々ありますが、明け方に妻のもとに帰っていく男を怨んだり、別れた男にいつまでも未練を感じたり、好いた男ではなく、嫌な客の相手をしたり、俗世を離れて仏門に入ったはずなのに、華やかな過去を忘れられずに悶々としたり……スパッと切るに切れない女心のもの悲しさを描く演目が多いです。
 遊女を扱った演目が多いのも特徴です。
 だからといって、過剰な色気を発散させるような振付ではなく、むしろ凛とした色香が漂うような風情です。
 決してハッピーエンドにはならない、上方舞独特の女舞です。
 代表的な演目に『黒髪』『』『由縁の月』『名護屋帯』『水鏡』『ぐち』『閨の扇』などがあります。

Q. ”艶物”以外には、どんな種類があるんですか?
A. ”ご祝儀物(ごしゅうぎもの)”、”本行物(ほんぎょうもの)”、”作物(さくもの)”などがあります。
 ”ご祝儀物”とは、読んで字のごとく、お目出度いときに舞う演目です。
 女性が舞う場合には黒留袖を、男性なら袴をつけて舞います。
 演目には『高砂』『松尽くし』『松竹梅』『名寄寿』『老松』など。
 ”本行物”はお能の演目を題材にしています。
 ストーリー性のある、重厚な味わいのある作品が多いです。
 演目には『葵上』『鉄輪』『珠取海士』『八島』など。
 ”作物”は洒落た味わいの、軽妙でおどけた風情が特徴の演目です。
 『浪花十二月』『からくり的』『』『三国一』『忘れ唱歌』など。
 見るのもお稽古するのも楽しいですが、軽みを出すのは、本当に難しいです。
 そのほかに、歌舞伎舞踊から題材を得ている作品群があります。踊りの振付を上方舞にアレンジしたような感じです。
 演目には『鐘が岬』『座敷舞道成寺』『鷺娘』『藤娘』『お七』など。

Q. お正月には何か特別な行事とか、あるんですか?
A. 流派によって異なるかもしれませんが、舞の世界では前年の12月13日に”事始め”を行うところが多いようです。
 宣明歴で、この日は婚礼以外のことは何でも吉、だったとかで、この日からお正月を迎える準備を始めたそうです。
 よくテレビで京舞の井上流の事始めが紹介されますが、吉村流でもこの日に事始めを行います。
 お家元宅で新年を迎えるご挨拶をするので、「新年もよろしくご指導くださいますよう、お願い申し上げます」というような感じです。
 ただ、この日にそのようなご挨拶をしても、実際に年が明けて迎える一月最初のお稽古日には、お家元に再び、「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします」とご挨拶してしまいます。なんだか、妙ですね。
    
  上の写真は、数年前のお家元宅での事始めの様子。12月13日で、早お正月気分になります。